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詩は数ある芸術表現の中でも最も古くからある形式の一つであり、
映像の無かった時代に置いてはイメージの伝播という点で絵画と双璧を成していた。
長年映画美術の世界で活躍した木村監督の世界を俯瞰するという意味でも『詩』から全てがはじまるというのは意義深い事だ。
『詩』から音楽が生まれ、映像が生まれていった、それはとても自然な流れであり、始めから全てが決まっている事のようだった。
今作でも長年映画美術界で活躍した木村威夫監督の独特の感性と美学が展開されている。
美術監督ならではの美しい映像、そしてスクリーンに表れる全てのものが隠喩であり、映像を使った詩でもある。
セリフのない無声映画のような体裁の今作では音楽が重要な位置を占めている。
シーン事に展開される音楽は音楽監督である川端潤により織りなされた。
注目は「洞窟の女王」役で、宝塚出身そして日本のシャンソン界の女王とも言われる深緑夏代。
80歳を超える高齢ながら、圧倒的な存在感で見る者を魅了する。
映画の冒頭で朗読される「波の声」(木村威夫 作詩)はこれから始まる物語を暗示するかのように、
気高くそして、神聖なる装いを帯びている。
『ヴァイオリンを弾く男』には、今タンゴ界で最も注目を集めているヴァイオリニストの喜多直毅を起用。
熱心に自分の全てをヴァイオリンに託す男の執念のようなものさえ感じさせるその演奏は木村美術の中で、一際輝いてみえる。
中盤の街場のシーンでジャズメンを演じるMooney(ムーニー)にも注目してほしい。
横浜を中心に活動するジャズヴォーカリストでジャグバンド等のルーツアメリカンミュージックに通じている彼ならでは、
陽気な古き良きアメリカンな雰囲気がスクリーンから溢れてくる。
『黒い装束の女』には井波知子を起用。
彼女は2003年に木村威夫が監督した、元キャロルのギタリスト内海利勝のショートムービー『街』にも出演した。
宿命を背負った女の独特な雰囲気を木村美術に負ける事なく発揮している。
木村威夫の美学と美術、そしてそれぞれのミュージシャン、女優の持つ個性が見事に結実した映画『OLD SALMON 海を見つめて 過ぎた時間』は詩、音楽、映像という3つの表現形態の幸せな出合いから生まれたコラボレーションと言える。
これは一つの叙事詩であり、夢、幻想、現実の境界がいかに曖昧であるかを示してくれる。
それは、世界は詩であり、決定不可能な隠喩であるという監督からのメッセージでもある。
それぞれの詩と映像がどういう風に展開していったか、それは不明な彼方でした。
物事は全てぶつかり合って意味が生まれ交叉して形となり、
交錯したそれ自体に投影されて来るのです。
この作品には不可解なもの意味不明なものが重要な役割を果たしてくれています。
木村威夫

 

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