200年前のラブソング
僕はインディペンデントの音楽レーベルをやっている。
このドキュメンタリーを作る切っ掛けはひよんな事からだった。
僕の事務所に古い友人から電話が入った。
君の事務所でミャンマー人の若者が働くことはできないだろうか?
ミャンマー人との邂逅がすべての始まりとなった。
もともと、僕は民族音楽が好きだった。
小泉文夫みたいな事ができたらいいなとも思ったことがあったし。
そしてトランク7ヶ分の録音機材を持ち込み
ヤンゴンの郊外の小屋で録音することになった。
現地で伝統音楽をやっている音楽家11グループが集まり
毎日録音を繰り返した。
40日かけて100曲になった。
時期はミャンマーの正月、水掛け祭りの頃。
これらの風景をカメラに収めた。
ミャンマーはタイ、カンボジア、ラオス、中国、インドの五カ国に囲まれている。
主要な民族は8部族で細かくは135部族ある多民族国家だ。
今回の録音ははビルマ族中心となり、18世紀の頃からの伝統音楽となった。
サインワインという太鼓が21個、木の風呂桶みたいなのにぶらさがった不思議な楽器がある。
これはこの地方の独特な楽器である。
それが中心となりサインワインオーケストラが構成される。
この楽器が指揮者となるのだ。
音階も特殊である。
又、歌を中心に演奏されるが伴奏といった概念はない。
みな歌にフレーズを重ねるスタイルで所謂、和音は存在しない。
西洋のコードの耳で聴くと違和感を感じることもある。
でも、妙な調和があるのだ。
フレーズもその曲だけのものではなく
時には他の曲中にも使用されたりする。
同じ定型的フレーズがいくつもの曲に存在することがある。
そして、譜面はない。
だから、皆、耳で覚えていく。
人から人へ伝えられるのだ。
多少の変化をとげながら。
今、ミャンマーはアウンサンスーチーが解放され、軍事政権下から民主化へと進み、
外国企業が次々と入り込んでいる。
次第に変化の動きはきている。
音楽家達のマインドも変化し
きっと、伝統音楽の在り方も変わっていくのであろう。
時代毎に変化をしながら伝えられるのが伝統音楽かもしれない。
だからこそ、今のこの時期に伝統音楽を録音してみたかった。
遠い昔を旅しているような錯覚のなかで。 |